たいへんお久しぶりです。店長です。まずはご無沙汰の非礼をお許し下さい。こちら、なんとか生きております。皆様はいかがおすごしですか?
最近、教壇に立つ友人と話をしていましたら、日本人のPR下手という話題になりました。彼は仕事柄、国際的な学会などに出席し大勢の人前で研究成果を発表したり、発表を聞いたりする機会が多いのですが、外国の研究者は検証不足の仮説を発表するときでも「皆さん、本日は大変ホットな発表をいたします」と前置きしてから本題に入るのだそうです。
一種のセンセーショナリズムをてこにして聴衆を話に引込むテクニックとも言えますが「PR上手」と言われれば確かにそうです。外国の人はこういう手管を使うのが上手だ、とのことでした。
ひるがえって日本人は、というか、私はこの手のPRはうまくないのかな、とも思いますが、最近は『ズバリ言うわよ』が決め台詞の占い師の例をひくまでもなく、我が同業のなかにもこの手の宣伝にたけた人たちが幅をきかせているようで・・・。
黄門様や大黒様がシンボルキャラクターの大手はんこフランチャイズ店の店頭やチラシには「技術に自信あり!」「品質に自信あり!」「デザインに自信あり!」「○○に自信あり!」というフレーズがオンパレード。まあ、たいそうな「自信」にはそれなりに根拠はあるのでしょう。少なくとも私どもにくらべて資本の大きさには自信を持たれてしかるべきですからね。もちろん、資本の大きさは我々事業を営むものにとって決定的ですから、資本力を駆使すれば不可能な事はないでしょう。
ただね、資本の大きさと「技術力」「品質」「デザイン」は必ずしも比例しないと思いますよ。「技術」も「デザイン」も機械設備やハードの問題ではなく、作り手=「人」の「感性」や「思想」、丁寧に手間ひまをかける「仕事に向き合う姿勢」の問題ですから。
こうしたフランチャイズ店は、大した自信のかげで、『印泥』を「いんどろ」と呼称するなど基本的な知識に疑問を抱かせる態度、印材の『アカネ(シャムつげ)』を『柘』といつわって表示する、『並み品』の象牙を『高級』という言葉で総称する、など「PR」というには余りにもお粗末な『言い換え』等「それはないでしょう」と言いたくなる振舞いが目に付くのです。ひょっとして「どうせ消費者は素人だからわからないでしょう」とでもお考えなら、それはとんでもない考え違いだと申し上げなくてはなりません。
私どもは、多少なりとも商品に付いての知識や経験を消費者の皆様にくらべて持ち合わせているかも知れません。しかし我々ハンコ作りの仕事というものは、ハンコを畑の作物に例えるなら、「消費者の御意見」というお天道様に支えられて作物の世話をしてる御百姓さんみたいなものです。実際にハンコを使う消費者の皆様の様々な意見や感想に支えられて商品を育てさせて頂いている。私達の知識や経験はお客様のためにこそ発揮させるべきものであって、消費者の皆様に情報を隠ぺいしたり、誤った印象を持たせたり、間違った先入観を与えるための方便ではないはずです。断定調の「自信」のウラで消費者を裏切り続けているとハンコと言う商品はどんどんダメになって行くでしょう。
「値段が安いから」といって喜んでいるお客様でも、何年かたって、お客様のステージが上がってきた時「こんなハンコ持っていては恥ずかしい」と思わせてしまうようなモノを平気で渡せてしまうような考えの持ち主がいくら「○○に自信あり!!」と胸を張ってみても、いつか「看板に詐りあり!」と指摘されるのが関の山だ、と申しあげたい。
「赤福」の無期限営業停止のニュースに接し、先祖から引継いだハンコ屋の魂を再度噛み締める今日この頃です
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